禁煙外来
健康に影響を及ぼす喫煙
禁煙は健康への近道
喫煙が健康に良くないことは幅広く知られています。喫煙習慣は、ニコチン依存症すなわち薬物中毒なのです。
当院では産婦人科の特性を生かした女性のための禁煙指導を行っており、健康保険による治療が可能です。35才以下の方は禁煙の意思があれば、直ちに治療が開始できます。3カ月・5回の受診で、卒煙をめざした治療を行います。
世界保健機関(WHO)は「たばこの世界的流行に関する報告2019」 を発表し「加熱式たばこなどの新型たばこ製品には、有害物質が含まれているため健康上のリスクがあるので、従来のたばこと同様の規制が必要だ」との見解を示しています。
お母さんだけでなく赤ちゃんにも影響が…
喫煙は健康に影響するので、妊娠中はタバコを吸ってはいけません。タバコに含まれるニコチンの影響により血管収縮と胎盤の血流が減少します。その結果、一酸化炭素により、赤ちゃんの赤血球の酸素運搬能が低下し酸素欠乏となり、赤ちゃんの成長が鈍り、低体重出生児が増えます。 また、ニコチンの神経毒性が影響し、ADHD(注意欠如・多動症)の発症率が2〜3倍になります。他にも子宮外妊娠、流早産、常位胎盤早期剥離、前期破水などの妊娠出産の合併症が増加し、周産期死亡(妊娠28週以後の死産や生後1週間未満の死亡)が通常の1.2〜1.4倍になります。 こうした異常は、いずれもタバコの量と関係があり、ご主人が喫煙されている場合も、受動喫煙により異常妊娠の割合が高くなるので注意が必要です。 また、産後も赤ちゃんのいる空間でタバコを吸っていると突然死(SIDS)の確率が増えます。家庭での喫煙は、小児期の喘息の原因ともいわれ、また小児の誤飲の第1位はタバコです。
タバコは長期間の喫煙により、ガンやさまざまな慢性疾患を起こすと思われがちですが、妊娠中は10カ月の短期間に多大な影響を赤ちゃんに及ぼします。妊娠中の喫煙は、慢性疾患ではなく、急性疾患の要因とも言えます。したがって、妊娠中や授乳中は絶対にタバコを吸わないようにしましょう。
逆に喫煙者の女性は、つわりが始まると、タバコが吸えなくなる方も多く、妊娠は、禁煙を始めるチャンスと捉え、産後も禁煙を続けましょう。
喫煙しているとピルにも制限がかかります
35歳以上で1日15本以上タバコを吸う人は、ピルや月経困難症治療薬(LEP)を飲むと心筋梗塞になる確率が20.8倍になるというデータがあります。したがって、喫煙している人はピルを飲むことができません。それ以下の本数でも血栓症のリスクが2〜3倍高くなるので、ピルを飲む方は禁煙した方がよいでしょう。禁煙により、ピルなどの薬代も相殺でき健康にもよいため一石二鳥です。
また、更年期症状により女性ホルモンを含む薬(貼付剤や塗布薬も含む)を使用する場合、ごく軽度ですが、心筋梗塞、狭心症などの心臓疾患、脳梗塞になる可能性が高くなります。
タバコはこれらの疾患の強力な危険因子です。従って、こうした方にも禁煙を勧めており、当院では、投薬と同時に禁煙治療を始めることもできます。
ガンの原因のひとつはタバコ
タバコの煙には約70種類の発がん物質が含まれており、肺がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がんなど、多くの原因となります。婦人科領域では子宮頸がんの悪化因子となります。
子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因ですが、HPVに感染した女性のうち、現喫煙者および前喫煙者の高度前癌病変または浸潤がんの発生率は、約2~3倍であり、受動喫煙もリスクの増大につながります。
HPVは一度感染しても、免疫能力があれば一過性で、2年以内には消失すると言われますが、喫煙者はなかなか消失しないようです。逆に、当院では、喫煙している方が、禁煙をすることでHPVが消失した症例があります。したがってこうした方には、受動喫煙を含め、禁煙することを強く薦めています。
喫煙は妊活にも悪影響
喫煙は卵巣や子宮への血流低下、女性ホルモン分泌の低下、排卵機能に異常をきたすため、不妊症の一因となります。また、不妊治療中の喫煙者の妊娠率は、非喫煙者の半分と言われています。また、男性の精子の濃度や運動率も低下します。つまり、妊活を始める前には、夫婦共に禁煙を心がけることが大切です。 一般的に閉経の年齢は50〜51歳と言われますが、喫煙により閉経年齢が早まる傾向にあります。また、閉経後の乳がん、骨粗鬆症の発生率が高くなり、皮膚の老化にも影響を与えていますので、喫煙は避けたほうがよいでしょう。 顔のシワには年齢と紫外線以外にも、喫煙の有無が影響を与えていることがこのデータからも分かります。
禁煙治療で一番大切なことは、本人の決断とやる気です。しかし、禁煙をしようと思っても、自分の意志だけでは、挫折することが多いのではないでしょうか。
医療機関で禁煙治療を始め、医師からの適切なアドバイスのもと、ニコチン依存から脱却するさまざまな手段や薬を使うことで、効率よく禁煙に成功します。
ニコチン依存症の治療は”禁煙治療のための標準手順書”に基づき保険治療で行います。5回の通院で治療が可能です。外来で、治療の概要説明、禁煙のための基本的なアドバイスの後、問診票の記入、その後、息の中の一酸化炭素(CO)濃度の測定を行います。最後にいつから禁煙するかを決め、決意表明の書類にサインをします。
薬は、脳のニコチンレセプターに蓋をし、タバコがまずくなる内服薬か、ニコチンを含んだパッチを貼り、それを徐々に減量する外用調布剤、緊急の場合はニコチンガムを使います。使用量と使用方法、副作用などを説明して処方します。
初診後、2週間、4週間、8週間、12週間後に再診し、禁煙の持続の評価とアドバイス、一酸化炭素(CO)濃度を測定し、必要に応じ薬を処方します。薬の副作用で治療を断念する方もいますが、症状を聞きながら、薬の量を調節し最大限のサポートで成功に導く丁寧な禁煙指導を心がけていますので、ぜひチャレンジしてください。
当院で禁煙治療を希望の方は、禁煙治療の初回問診票を記入のうえ持参いただくとスムーズな診療につながります。
治療の費用は、5回以内で禁煙が完全にできた場合、以後の薬剤は不要となるため、この金額より安く禁煙できることが多いです。
5回12週間の外用貼付剤
1万3千円程度
5回12週間の内服薬
2万円程度
カナダのトロント大学の分析では、大半の喫煙者は禁煙(一年以上禁煙が続く状態)に成功するまで、平均で30回ほど禁煙を試みているそうです。
禁煙外来の治療で成功しても、また何かの弾みでタバコを吸うかもしれません。その場合でも、諦めずに、また挑戦しましょう。ニコチン依存症の治療は一年間の間隔が空いていれば、繰り返しの治療が可能です。
お子さんのおられる女性に聞くと、妊娠中と授乳中は禁煙できた方がほとんどです。つまり、多くの女性は決断すれば禁煙ができ、ニコチン依存症から脱出できるのです。妊娠中の禁煙の成功には“赤ちゃんへの愛”があるからだと思います。“禁煙には愛”が大切です。ぜひ、禁煙に成功して、ご家族のためにも健康な身体を維持していきましょう。